うつ病こんな症状ありませんか?


うつ病の更に詳しい情報

 

うつ病とは

抑うつ気分、抑うつ状態、うつ病

「ゆううつである」「気分が落ち込んでいる」などと表現される症状を抑うつ気分といいます。抑うつ状態とは抑うつ気分が強い状態です。うつ状態という用語のほうが日常生活でよく用いられますが、精神医学では抑うつ状態という用語を用いることが多いようです。このようなうつ状態がある程度以上、重症である時、うつ病と呼んでいます。

うつ病の分類

うつ病の分類方法の代表的なものを示します。原因からみて外因性あるいは身体因性、内因性、心因性あるいは性格環境因性と分ける場合があります。 身体因性うつ病とは、アルツハイマー型認知症のような脳の病気、甲状腺機能低下症のような体の病気、副腎皮質ステロイドなどの薬剤がうつ状態の原因となっている場合をいいます。
内因性うつ病というのは典型的なうつ病であり、普通は抗うつ薬がよく効きますし、治療しなくても一定期間内によくなるといわれます。ただ、患者さんの苦しみや自殺の危険などを考えると、早く治療したほうがよいことはいうまでもありません。
途中で躁状態になる場合は、躁うつ病と呼びます。
心因性うつ病とは、性格や環境がうつ状態に強く関係している場合です。抑うつ神経症(神経症性抑うつ)と呼ばれることもあり、環境の影響が強い場合は反応性うつ病という言葉もあります。
このような原因を重視したうつ病分類とは異なる視点からの分類が最近、よく用いられています。たとえば、アメリカ精神医学会が出しているDSM-Ⅳには気分障害という項目があり、それをうつ病性障害と双極性障害に分けています。うつ病性障害の中に、一定の症状の特徴や重症度をもつ大うつ病性障害と、あまり重症でないが長期間持続する気分変調性障害があります。
ふたつの分類は異なる立場からの分類であり、それぞれに長所と短所があります。時に「内因性うつ病=大うつ病性障害」「抑うつ神経症=気分変調性障害」のように誤解している方がいますが、適切に使い分けることが大切です。

 
 

患者数

うつ病の有病率や患者数については、非常に多くの疫学研究がありますので、川上の総説(※1)から一部を改変して引用しておきます。

うつ病の12カ月有病率(過去12カ月に経験した者の割合)は1~8%、生涯有病率(これまでにうつ病を経験した者の割合)は3~16%である。日本では12カ月有病率が1~2%、生涯有病率が3~7%であり、欧米に比べると低い。一般的に女性、若年者に多いとされるが、日本では中高年でも頻度が高く、うつ病に対する社会経済的影響が大きい。

厚生労働省が実施している患者調査によれば、日本の気分障害患者は1996年には43.3万人、1999年には44.1万人とほぼ横ばいでしたが、2002年には71.1万人、2005年には92.4万人、2008年には104.1万人と、著しく増加しています。
「最近うつ病が増えた」と強調されることがありますが、数字の解釈には注意が必要です。うつ病は検査などで明確に診断できる疾患ではないため、診断基準が少し変わることによって、診断される患者数にかなりの差がでてきます。最近の増加が本当の増加なのか、うつ病であるという判断方法の違いの影響が大きいのかは、十分注意する必要があるでしょう。

※1 川上憲人:世界のうつ病、日本のうつ病-疫学研究の現在.医学のあゆみ 219(13)、925-929、2006

 
 

原因・発症の要因

典型的なうつ病といえるのは、すでに述べた中でいえば内因性うつ病です。うつ状態が一定期間持続し、治療しなくても軽快するといわれ、うつ病性挿話と呼ばれます。うつ病性挿話は治った後も再発することがあります。
うつ病性挿話は環境のストレスなどが引き金になる場合もありますが、何も原因となることがないまま起こる場合もあります。このようなタイプのうつ病では、セロトニンやノルアドレナリンなどの脳内の神経伝達物質の働きが悪くなっていると推測されています。しかし、これもセロトニンやノルアドレナリンに作用する薬がうつ状態に効くことがあるため、考えられていることであり、まだ十分に実証されているとはいえません。
最初に説明した身体因性うつ病や性格環境因性うつ病のように、原因が考えられるうつ状態でも、セロトニンやノルアドレナリンが関係しているかどうかは、まだはっきりしていないと考えたほうがよいでしょう。
たとえば、うつ状態を起こす薬剤として知られているもののひとつにインターフェロン(IFN)があります。IFNによるうつ状態の原因は、血液の中からわずかに脳内に移行したIFNの作用、副腎皮質や甲状腺を介する作用、ドバミンやインターロイキンなどに関係する作用などが関係しているといわれ、とても複雑です。
一方、休みの日には比較的元気であるなどといううつ状態では、性格面の影響が大きいことが多く、神経伝達物質の影響がそれほど大きいとは思えません。このような場合、「うつ病はあなたのこころが弱いとか甘えているわけではなく、セロトニンやノルアドレナリンなどの働きが悪くなった状態だから、薬をのんで休んだほうがよい」などというアドバイスは、逆効果になることがあります。

 
 

症状

うつ状態で一般にみられる症状を表1に示します。早期発見のためにも重要です。ふだんの自分と違う心身の調子の変化に気づいたら、また周囲の方であれば、いつもと違う相手の様子に気づいたら、一度はうつ病を思い浮かべてください。
表2にはDSM-Ⅳの大うつ病エピソードの診断基準を示します。「ほとんど一日中、ほとんど毎日の」「すべて、またはほとんどすべての活動における」「同じ2週間の間に存在」のようにかなり厳しい(うつ状態がかなり重症でなければ満たさないような)基準であることに注意してください。

 
 

治療法

通常のうつ病治療の考え方

「うつ病はこころの風邪。早く薬をのんで休養をとりましょう」という啓発活動が、不適切な形で広まっているのではないでしょうか。考えないといけないこころの問題を軽視して、薬で治そうとする患者さんが増えた気がしますし、薬を出して変えるしかしない医師が増えたようにも思います。うつ病治療の主な考え方を記します。

  • 身体疾患や薬剤がうつ状態の原因であったり、うつ状態に影響を与えていたりしないか検討します。もし可能性があれば、身体疾患の治療や薬剤の中止あるいは変更を考慮します。この場合も、うつ状態が重症であれば抗うつ薬療法を併用します。
  • 身体疾患や薬剤が関係しておらず、うつ状態が表2のような基準を満たす場合は、抗うつ薬療法を考えます。ただし、うつ病が軽症である場合は、抗うつ薬がそれほど有効でないとする報告もありますので、抗うつ薬は期待される有効性と副作用を慎重に検討する必要があります。また、躁うつ病のうつ状態では原則として抗うつ薬を用いず、気分安定薬に分類される薬剤を処方します。
  • 環境のストレスが大きい場合は調整可能かどうかを検討し、対応します。過去にいろいろな場面でうまく適応できず、うつ状態になっているような人で、性格面で検討すべき問題がある場合は、精神療法として一緒に考えていく必要があります。
抗うつ薬療法

抗うつ薬療法が好ましいと思われる状態の場合、最近はいわゆるSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)を用いることが多いようです。きちんと決められた通りに服用することが大切です。
SSRIは副作用が少ないと思われがちですが、頭痛、下痢、嘔気などはよくみられます。また服薬開始には、セロトニン症候群、減量や中止時には退薬症候群といって、かえって不安感やいらいら感が強くなったようにみえることもあります。
「SSRIが発売されて、精神医学を専門としない医師にもうつ病治療が可能になった」かのような話を耳にすることがありますが、それほど簡単に使える薬ではありません。SSRIやSNRI(セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬)という分類で薬物治療の方針が示されることもありますが、薬剤ごとに副作用や薬物相互作用の差が小さくありません。個々の薬剤について、論文や添付文書を読んで適切に使う必要があります。

その他の治療法

うつ病の精神療法の中には認知行動療法、対人関係療法などがあります。認知行動療法のひとつとして、有効性の検証までには時間がかかるとしても、職場復帰を目的としたリワークが注目されています。また、難治性うつ病や抗うつ薬の副作用が出やすい高齢者に対する無けいれん電撃療法も重要な選択肢です。

 
 

経過

最近のようにうつ病ととらえる範囲が広がり、「うつ病」といっても人ごとに思い浮かべる病像が違うような時代に、うつ病の一般的な経過を述べるのは非常に難しい気がします。身体疾患や薬物の影響が大きいうつ病は、その身体疾患の治り方や薬物を減量したり変更したりできるかが、治るかどうかのカギになります。
「内因性うつ病」や「大うつ病性障害で他の精神疾患の合併がない」と診断されるうつ病は、抗うつ薬が有効であることが多く、高い割合で完治します。しかし、再発予防のための抗うつ薬療法や精神療法は十分に行う必要があります。一方、「抑うつ神経症」や「気分変調性障害」と診断される場合は、環境をどの程度調整できるか、患者さん自身が自分の性格や状況への対応を医師とともにどの程度考えていけるかによって、転帰は大きく異なってきます。
大うつ病性障害と診断され、不安障害、身体表現性障害、人格障害などに含まれる障害をも伴っている場合は、一般に大うつ病性障害のみの場合よりも治療は複雑になり、改善が遅れることが多くなります。

 
 

患者さんへのアドバイス

うつ病といっても、どのタイプのうつ病かによって患者さん自身の気持ちのもち方や家族の方の対応は大きく異なってきます。
何より大事なのは、信頼できる主治医をもつことです。自分に合ったアドバイスを主治医にもらうことが最も重要です。精神科を専門とする医師であればよいというものではなく、やはりさまざまな情報を集めて、信頼できる医師を探すことをおすすめします。
そして、どんなタイプのうつ状態であっても、時間がかかっても気分がよい方向に向かう日は必ずあるはずですから、絶対に自殺は考えないでください。
うつ病といわれたすべての方の治療にあてはまるようなアドバイスはなかなか思いつきません。たとえば典型的なうつ病で、なかなか寝付けず、一方、朝早く目が覚めてしまい、さらには朝の気分がとても悪い方にとっては、誰でも思いつく「早寝早起きの規則正しい生活を心がけましょう」というアドバイスさえ、かえって苦しめたり、追い込んだりする言葉になりかねません。うつ病の時は「薬をのんで、休養をとる」のがよいようにいわれますが、これがあてはまるのも一部のうつ病と考えたほうがよいでしょう。 「主治医が薬を変えるだけで何もアドバイスをくれない」とか「病気の説明もきちんとしてくれない」などという話をよく耳にします。主治医には疑問点を徹底的に質問してください。きちんとした主治医は答えてくれるでしょうし、最新の医学でもわかっていないことは「わかっていない」とはっきりいってくれると思います。主治医が頼りない場合は、積極的にセカンドオピニオンを求めることも考えていただいてよいと思います。

 
 

研究の現状

うつ病ととらえる範囲が広まることで、うつ病の概念がかえってあいまいになってきたのかもしれません。うつ病研究は、生物学的な面と精神療法の面から多くの研究が続けられています。
第一は新しい抗うつ薬の開発です。副作用が少なく、効果が強い薬剤が少しずつ発売されてきました。一方で、さほど新しい特徴のない薬剤が新薬として売り出される場合もありますので、使いこなす医師の知識と診療能力が試されているともいえます。
うつ病を生物学的に解明しようとする研究には分子生物学的研究、神経内分泌研究、動物モデルを用いた研究、画像研究などがあります。特に近赤外線スペクトロスコピーは、うつ病の診断に有用であると注目されています。
精神療法面では認知行動療法、職場復帰プログラム、子どものうつ病、自殺との関係などについて報告が多いようです。

 
厚生労働省