アルコール依存症
「統合失調症」とは
神経伝達物質のバランスがくずれて起こる病気です
統合失調症は、脳の神経伝達物質のバランスがくずれることで起こります。脳のさまざまな働きをまとめあげることができない(統合する機能が失調している)ために、健康な状態なら簡単にできることが難しくなってしまうのです。心が分裂してしまう不治の病などではなく、適切な治療によって回復可能な疾患です。
幻覚・妄想に悩まされる病気
統合失調症の症状でよく知られているのが、「幻覚」と「妄想」です。
幻覚とは実際にはないものをあるように感じる知覚の異常で、中でも自分の悪口やうわさなどが聞こえてくる幻聴は、しばしば見られる症状です。
妄想では、いやがらせをされているといった被害妄想、テレビやネットが自分に関する情報を流していると思い込んだりする関係妄想などがあります。
こうした幻想や妄想は、本人には現実感を伴って知覚されるので、病気が原因にあるとはなかなか気づくことができません。
発症のきっかけは強いストレス
発症の原因は正確にはよくわかっていませんが、統合失調症になりやすい要因をいくつかもっている人が、仕事や人間関係のストレス、就職や結婚など人生の転機で感じる緊張などがきっかけとなり、発症するのではないかと考えられています。
100人に1人弱がかかる病気です
日本での統合失調症の患者数は約80万人といわれています。また、世界各国の報告をまとめると、生涯のうちに統合失調症を発症する人は全体の人口の0.7%と推計されます。100人に1人弱。決して少なくない数字です。それだけ、統合失調症は身近な病気ということができます。
気長に病気とつきあっていくことが大切
治療によって急性期の激しい症状は3~6ヵ月で治まります。その後は慢性期となり、1~2年で安定しはじめ、3~5年で長期安定にいたるというのが一般的な経過です。
なかにはまったく症状が出なくなる人もいますが、症状がなくなったからといって自己判断で中途半端な時期に薬をやめてしまうと80%の人が5年以内に再発します。
統合失調症も糖尿病や高血圧などの慢性病と同じで、薬を使って症状が出ないように、気長に病気を管理していくことが大切です。
統合失調症のサイン・症状
1.確かに聞こえている、見えているのに、まわりの人が否定する
統合失調症で多く現れる症状は幻覚や妄想です。これは、脳のなかで情報が間違って伝わって起きる症状なのですが、とてもはっきりと聞こえたり見えたりするために、脳の中だけで起きているとは考えにくいものです。
家族や友達、同僚、上司、医師などの周りの人が皆「そんなことはない」と否定する。
2.周囲の人にもわかる統合失調症のサイン
統合失調症に多い幻覚や妄想の症状は、本人には現実味があってそれが病的な症状だとは気づきにくいものです。周りの人が気づくことが、統合失調症の早期発見の第一歩となります。そのためには、幻覚や妄想に気づくこと、またその他の統合失調症にみられる特徴にも注意を払って見てください。
3.幻覚や妄想のサインはありますか
- いつも不安そうで、緊張している
- 悪口をいわれた、いじめを受けたと訴えるが、現実には何も起きていない
- 監視や盗聴を受けているというので調べたが、何も見つけられない
- ぶつぶつと独り言を言っている(幻聴と対話している)
- にやにや笑うことが多い
- 命令する声が聞こえるという(その声が直接頭の中に聞こえる感じがする)
生活の障害が見られますか
- 会話や行動の障害:
話にまとまりがなく、何が言いたいのかわからない、相手の話の内容がつかめない、作業のミスが多い。 - 意欲の障害:
- 打ち込んできた趣味、楽しみにしていたことに興味を示さなくなった
- 人づきあいを避けて、引きこもるようになった
- 何もせずにゴロゴロしている
- なりにまったくかまわなくなり、入浴もしない
統合失調症の治療法
統合失調症の治療で難しいのは、本人に病気の自覚がないことです。重症度にもよりますが、軽症でかつ受診を拒否する場合は、まずは家族が問診を受け、家族会や勉強会などで、統合失調症について知ることから始めるという選択肢もあります。
1.治療の目標
- 幻覚や妄想などの症状をおさめる
- 認知機能障害による生活機能のレベル低下を防ぐ
- 回復後は再発しないように維持する
2.治療の方法
薬物療法と心理社会療法が合わせて行なわれます。急性期の激しい症状を抑えたのち、心理社会療法で病気の自己管理の方法を身につけたり、社会生活機能のレベル低下を防ぐ訓練などを行ないます。
薬物療法
- 主に使われる薬
抗精神病薬(症状を抑え、ストレスへの抵抗力を高める) - 補助的に使われる薬
抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬、気分安定薬 - 薬はいつまで続けるのか
薬をいつまで続けるのかは、個人差があり一口にはいえません。症状の安定をみながら、減量や中止をはかっていきますが、その判断は専門医でなくては難しいものです。
再発を繰り返すことが多い疾患なので、しばらく症状が安定しているからといって自己判断で薬の量を減らしたり中止することは、再発を誘発して重症化の危険を高めます。
第2世代抗精神病薬と呼ばれる新しい薬は、これまでの薬と違って陽性症状・陰性症状の両方に効果があり、副作用も少ない薬です。5年、10年と長期に服用しても問題がない場合が多くなりました。しかし、それでも「副作用がつらい」「薬をやめたい、減らしたい」などの悩みがあれば、勝手にやめずに医師に相談しましょう。
心理社会療法
- 個人精神療法
病気や治療に関する知識を身につけて、回復意欲を高める - 認知行動療法
幻覚や妄想などへの対応を学び、ストレスへの抵抗力を高める - 生活技能訓練(SST)
社会生活や対人関係のスキルを回復し、自信を取り戻す訓練 - 作業療法
園芸、料理、木工などの軽作業を通じて、生活機能の回復を目指すもの。
プログラムはレクリエーション的なものから、パソコン教室などのように将来の就労をめざすものまでさまざま
私が統合失調症になったとき
私の経験 32歳・会社員
大学を卒業後、大手建設会社に就職した。2年前から隣の課の男性と社内恋愛をしていたが、半年前に破局。彼は離婚寸前だと言っていたが、それは嘘だった。
忙しい職場だったので、失恋のつらさを忘れるためにも仕事に打ち込むようにしていたが、疲れやすくなってきた。食欲もないし、よく眠れない。1年半の間、誰にも秘密で交際をしてきたつもりだったが、最近は、なんだか職場の人たちが全部知っていて、私のことを軽蔑していると思えてきた。
隣の席のAさんが取引先との電話のなかで「ご存知でしたか?当然ですよね」と言っていたのは私のことだし、休憩時間にBさんが同僚と「あきらめが悪いよね」と言っていたのも私の悪口だ。
昼休みはひとりでお弁当を食べるようになった。
ある日、パソコンで調べ物をしていたら、そこに私の悪口が書かれていて、驚いて大声で泣き出してしまった。隣の席のAさんが、私を廊下に連れ出して「疲れているみたいだよ。大丈夫?」と、社内の産業医に連れていってくれた。
産業医からの連絡で、同僚に確認をしたり社内のPCなどをチェックしたが、私の悪口が広まっていたり、書き込みされている事実はないという。確かに悪口を聞いているし、PC画面も見ているのでとても信じられない。みんなで口裏を合わせているに違いない。
家族に連絡がいったらしく、精神科の受診をすすめられ、両親に付き添われて受診した。私も、職場での悪口や軽蔑されている環境からのストレスで疲れていると感じていたので、そのことを訴えてみた。精神科医も職場に確認して、軽蔑されているとかPCに悪口が書かれているということはないという。とても信じられない。もう、あんな職場で働きたくない。
服薬で症状をコントロールできれば働くこともできる
服薬で症状をコントロールできれば、働くこともできるようになります。
症状が落ち着いた段階で、心理社会療法でストレスへの抵抗力を高めるようにすれば、統合失調症とうまくつきあうことができるようになるでしょう。
周囲の人の適切な援助が重要
統合失調症の人は幻覚や妄想から、周囲の人がみんな自分の敵であるように感じて、自分から孤立してしまいがちです。家族や職場の人の適切な援助によって、治療につなげることが重要です。
家族や友人が統合失調症になったとき
息子が統合失調症になった母親の経験 (息子22歳・建築業 母47歳)
息子は高校を2年で中退し、夫と同じ建築業の仕事についた。夫が息子を現場につれていって仕事を教え、それなりに真面目に働いていた。
20歳で初めて大きな仕事場を経験したとき、同年代の同業者と自分の技術を比較して「自分の技術は低いかも」と気にするようになった。 「これまでアパートや中低層マンションなどの仕事ばかりで、高層オフィスビルの仕事は初めてなんだから、知らないことがあって当たり前。経験を積めば大丈夫」と、何度も励ました記憶がある。
そのころから「周囲の人に自分の情報がもれている」などと言うようになったが、あまり気にしていなかった。すると、自室のドアのすき間やカギ穴にガムテープを貼り、窓にはダンボールを貼りつけ、密閉してしまった。
なぜこんなことをするのか、と聞くと、仕事仲間が息子について「背中にアザがある」「小学生のときは太っていた」など、他人が知るはずもないことを、コソコソと話しているから、のぞかれないようにしているのだと言う。
そのうち、隠しカメラがあるかもしれないと言い出し、壁にも厚い布を張るようになり、仕事にもいけなくなってしまった。眠ると頭の中がのぞかれてしまうからと、コーヒーを何杯も飲んだりして、追い詰められた表情をしている。
「このままでは体をこわすから」と病院につれていき、治療が始まり、2週間くらいたったとき「もう緊張しなくなった。仕事に集中できている」と、元気そうに話しだした。
「いろいろ感じても、そんなことはない、と言い聞かせて気にしないことにした」とのこと。
回復してきても、治療はまだ続けなくてはならない。長いつきあいになる病気だということなので、病院の勉強会にも通っている。
家族も病気についてよく理解して
統合失調症がどんな病気なのか知らないと、仕事に行けないのが病気の症状によるものだと理解できず「なまけている」などと叱って、患者さんの苦しみを増してしまいます。勉強会に出たり、本を読んだりして、症状や治療についての知識を身につけておきましょう。
できる範囲で治療の援助をする
薬の飲み忘れがないように気をつけてあげたり、受診につきそって家庭での様子を医師に伝えたりといった家族の援助が回復の助けとなります。
自分を追い詰めない
家族が病気になると、献身的に看病をしすぎて無理をしてしまう人がいます。でも、あまり自分を犠牲にしすぎると、患者さんも負担に感じます。自分の時間を大切にしてリラックスすることも大切です。
とはいっても、とてもそんな気持ちになれないという場合は、家族会に参加して、同じ立場の人と話をしてみましょう。それもつらくてできないという場合はカウンセリングを受けて自分の心をケアすることも考えてみましょう。
やらないように気をつけたいこと
統合失調症の人は対人関係に敏感なので、次のようなことは避けましょう。
- 批判的な言い方、責めるような言い方をしない
健康な人ならあまり気にしないようなことも、患者さんにはストレスになり、ときには再発の引き金にもなります。 - 患者さんの前でオロオロ心配する
家族が心配になるのはしかたがありませんが「将来どうなるのか」「いつになったら働けるのか」など、患者さんの不安をあおるのはやめて、よい面を見つけて評価してあげるようにしましょう - 医師の治療を疑うような発言をしない
「この薬で本当に治るのか」「薬の量が多すぎて心配」など、患者さんに言うと不安にさせてしまいます。治療に疑問があれば、医師に相談するようにしましょう。
困った時の相談先
- 各都道府県の精神保健福祉センター
- 保健所
- 病院・診療所の精神科
- 病院や地域の家族会、自助グループ
- 地域活動支援センター(地域生活支援センター)