うつ病
「うつ病」とは
「ゆううつな気分」とは違います
ほとんど誰もが、「ゆううつな気分」を経験したことがあります。そしてほとんどの場合、こうした「ゆううつな気分」は、食べたり、眠ったり、遊んだり、家事や勉強や仕事をしたりしているうちに、知らないうちに消えています。これは誰にでもある気分の波で、うつ病とは違います。たまたま気分の大きな波が下に向かってしまったにすぎません。
でも中には、半月や一カ月以上続くどんよりした気分があります。自分に価値などないと思い死にたい気分になることもあります。こうした重苦しい気分は、家事や勉強や仕事をしても消えることがなく、また、そういうことをする気力もわきません。そうなると自分がダメ人間になってしまったような気分がどんどん強まってしまいます。こんな状態が続くようなら、それはうつ病かもしれません。
きちんと治療することで楽になります
日本の場合、一生の中でうつ病を経験する人は3~7%といわれます。100人のうち3~7人とは、決して少ない数ではありません。それだけうつ病は身近な病気だといえます。
しかし、うつ病になる人のうち4分の3はきちんとした治療を受けていないといわれます。うつ病を正しく理解して、早く気づき、その人の状態にあった支援や治療をうけることで、出口のない重く暗い闇の中から抜け出すことができるのです。
「心のカゼ」でも「甘え」でもありません
うつ病は、放っておけば元に戻る通常の気分の波とは違います。カゼのように自然に治るものでも、気力で治せるものでもありません。放っておくと心だけでなく体にも深刻な影響を及ぼします。自殺の危険も大きい病気です。ご自身も、そして周りの人も、うつ病を見逃さないで一日も早く向き合うようにしましょう。
死にたい、というのは病気が思わせているものです
うつ病になると、死にたいという気もちが強くなります。特に、うつ病になったばかりの頃や、治りかけの頃に死にたいと思う心の動きが出やすくなります。死にたい、と強く思っても、それは本当のあなたの願いではないのです。死を考えたら、まずうつ病をうたがって、身近な人や窓口、電話相談などに自分の思いを話してください。
医学的な治療と同時に社会的な支援も求めましょう
うつ病は、社会的・経済的な問題が発症や悪化の原因になっている場合も少なくありません。うつ病を治療する場合は、精神療法や薬による医学的な治療を進めると同時に、不安の原因となっている社会的・経済的な問題の解決にも取り組むことが重要です。そのための相談窓口として、ハローワークや地元の保健所・精神保健福祉センターなどを活用することができます。ただ、見知らぬ人にすぐに自分の不安や経済的な問題を話すことはなかなか難しいものです。事前に何を相談するか、自分の不安がどこにあるかをノートなどに書いて考えを整理して行くと、話がしやすくなります。
うつ病のサイン・症状
1.それは、どのくらい続いていますか?
うつ病とゆううつな気分の違いのひとつに、
- ゆううつなどんよりした気分がずっと続く
というものがあります。逆にいうと、普通のゆううつな気分は、だいたい2週間も続けば少しは上向きになるのです。また、気分転換になるようなことをするとその間やその直後だけでも気分が上向きになります。
でも、うつ病では一日中気分が晴れることがありません。朝は特に気分の落ち込みが強く、夜に向けて少しだけましになるのでどうしても夜型の生活になりがちです。気持ちが晴れないまま心の低空飛行が半月以上も続くようなら、「もしかしたらうつ病?」と考えてみましょう。
2.ゆううつなどんよりした気分とは?
うつ病では、次の2つの気分が多く感じられます。
- 一日中気分が晴れることなく、みじめで悲しい・虚しい気分が消えない
- どんなものにも興味や喜びを感じない、感動しない
また、 - 自分をおとしめる・責める
私など価値がない人間だ、自分が悪い、私のせいだ、という思い - 能力・記憶力の異常
集中できない・気力がでない・物忘れが多い・物事を決められない、仕事や家事、そのほかの活動が思うようにできなくなる - 死にたいという思いが強い・自殺を実行したことがある
- 朝が一番気分の落ち込みが強い
などの症状も、うつ病のサインです。
3.からだや行動や日常生活に潜むサインを探しましょう
うつ病では、気分だけでなくからだや日常生活や動作にも変化が現れることがあります。次のようなサインはありませんか?
こうした変化は、時には、気分の落ち込みの前にあらわれることもあります。
- 体重の極端な変化
極端に体重が減る・増える - 睡眠の異常
疲れているのに眠れない・一日中寝ている・いつもよりかなり早く目覚める - 行動の異常
焦りを感じていて、周りの人から見ても落ち着きがない・動作が鈍くなる・外出をしなくなる - 体調の異常
いつも疲れている・治療しても治らないしつこい頭痛や筋肉痛などに悩んでいる
4.これはあくまでも目安です。
おかしいな?あてはまるかな?と思ったらまずは専門知識のある人に相談しましょう。
相談する相手は、地域の保健所や精神保健センターなどの相談窓口や、かかりつけの医師やメンタルクリニック(精神科の開業医)などの医療機関などがいいでしょう。
インターネットなどで一方的な情報を集めて自己診断することは必要な正しい治療を遅らせるだけで、おすすめできない方法です。
うつ病の治療法
他の病気や服薬の影響はありませんか
医療的な治療としては、他の病気や薬などが原因になっている場合は、その治療や服薬の中止・変更などを優先します。
ストレスの影響を受けやすい性格の人には精神療法を
ストレスの影響を受けやすい人は、ストレスに負けない考え方を身につけるような精神療法も効果があります。
多彩な治療薬
抗うつ薬といわれるものだけでもSSRIやSNRIといったものから三環系抗うつ薬などいくつかのグループがあり、抗うつ薬の他にも抗不安薬や症状に合わせて睡眠導入剤なども使われます。どの薬が効くかは患者さんひとりひとり異なり、また同じ患者さんでも病気がどのような段階かによって違ってきます。
薬の飲み方
薬物治療では、いろいろな種類の薬の中から一番患者さんによく効く薬を選んで処方することになります。
治療のはじめのころは、どの薬が一番効くかを調べるためにいくつか薬を変えて様子をみることがあります。本当の効き目を知るためには、処方された量と回数をきちんと守ることが大切です。
副作用などが気になって、つい量や回数を減らしたくなりますが、医師・専門家の指示を守って服用することが大切です。
副作用が心配・副作用が出たのでは?という不安や悩みを持ったら、すぐに医師・専門家に相談するようにしましょう。何でも相談できる関係を医師・専門家ともつことはうつ病治療の第一歩です。でも、実際には相談しにくいことが多いのも確かです。そういう時は、日ごろ心配や気になることをノートなどに書きとめて、診察時に医師に見せたり自分で読むなどするとある程度は相談しやすくなります。また、自助グループや患者会、支援センターなどに不安や疑問を相談して助言を求めるのもひとつの手です。
私がうつ病になったとき
私の経験 48歳主婦
子供が自立した直後くらいから、家事がうまくできなくなってきた。昼過ぎまで頭がぼーっとしているので、掃除も洗濯も後回しになってしまう。結果的に、すべてが中途半端で、家はどんどん散らかっていき、夫が帰ってきたときにはまだ食事の準備が終わっていないような日が続くようになった。
甘えだとわかっているのだけど、体が動かない。家事ができなくなった専業主婦は、もう家にいる価値などないと思う。夫にも申しわけない。私などいないほうがきっと夫にも子供にもいいだろう。明け方目が覚めたまま、ずっと涙がでて止まらない。このままいなくなってしまいたい。死にたいと思う気持ちが毎日強くなって、7階のベランダからじっと下の地面を見下ろして、あと一歩で死ねる、と思う日々が続いていた。
ある日夫が、検診の際に会社の医師に私の話をしたとのことで、帰宅後一緒に病院に行こうと言われた。聞けば精神科だという。とても嫌だったけれど、夫にこれ以上迷惑をかけるのはもっと嫌なので行くことにした。夫は付き添ってくれた。
そこで私は「うつ病」と診断された。医師は私だけでなく夫にも詳しく病気の話をして、また、患者が参加する当事者グループも紹介された。
処方してもらった薬を飲んでも初めはあまり気分が変わらず、やっぱり私はだめなんだとがっかりした。でも、当事者グループで知り合った人に励まされて、そのことをきちんと医師に伝えることにした。ただの愚痴に聞こえるのではないか、迷惑なのではないかと心配だったけれども、診察前に考えをまとめて話すようにするうち、少しずつ医師と会話らしい話もできるようになった。薬も何度か変わって、最近、前よりも体が動いてどうにか掃除や料理ができるようになってきた。
子供にはうつ病であることを知られたくなかったけれど、夫が話したらしく、以前より頻繁に家に帰ってきたり連絡をくれるようになっている。私は家にいてもいいのかな、と思えて、最近は少しだけ気持ちが楽になったような気がする。
相談相手をみつけよう
心の状態のことでも、治療のことで不安があったり、死にたくなった時でも、一人で悩まずに、相談できる人や場所をみつけましょう。家族や友人、患者グループ、精神保健福祉センター、電話相談など、窓口はたくさんあります。(「皆様へのサポート」にリンク)
治療は焦らず、ゆっくりきちんと
うつ病は、治るまでに時間がかかる病気です。焦らずに一歩一歩ゆっくりと歩んでいきましょう。そのためには医師との間に信頼関係を築くことが大切ですが、初めはどうしても壁を感じてしまい、思うように話しができないものです。日ごろから気になること、心配なことなどをノートなどに書いて、それを読んでもらうのもひとつの手です。
死にたい、というのは病気が思わせているものです
うつ病になると、死にたいという気もちが強くなります。でもこれは、病気が思わせていることで、本当のあなたの願いではないのです。死にたい、と思ったら、まず誰かに話したり、
家族や友人がうつ病になったとき
息子がうつ病になった母親の経験 (息子26歳会社員 母57歳会社員)
近くの県でひとり暮らしをしていた息子が、残業の多い部署に変わってしばらくしてうつ病になった。
その少し前から、体が重い、頭がぼーっとすると電話でいうことが多くなっていたが、それでも仕事で疲れているのだろうくらいに思っていた。
そのうち携帯でも連絡がつかなくなって様子を見に行ったところ、ゴミだらけの悪臭のする暗い部屋の中でパソコンを開いたまま息子が座っていた。会社に行かないのかと聞いたところ、「もうどうでもいいんだ」「僕が行っても何もできないし」など否定的なことばかりを言う。それでもどうにか会社には風邪で行けないというメールを送っていたらしい。
夫と相談して、しばらく私が息子と暮らして様子を見ることにしたのだが、息子の好物を作っても味がしないといってほとんど食べず、明け方までパソコンをながめてほとんど眠らないと思えば、昼はいつまでもごろごろと寝ている。笑うこともなく、私が少し厳しいことを言っても反論するでもなくぼんやりとしている。会話もほとんどない。こんな息子は見たことがない。認めたくないけれど、どこか変なのではないかとうっすら感じられるほどになってきた。
ある朝、ぽつんと「僕、本当に生きているのかな」と息子が言った言葉と、その声の平坦さにぞっとして、夫に精神科に相談したいと伝えた。夫は息子が精神科にかかるということがなかなか受け入れられないらしく、そんなことが会社に知られたら息子はもうおしまいだ、甘やかすなと反対する。でも母親の直感でこれは放っておけないと言い張って最終的には実家の近くの病院の心療内科を受けることを同意させた。
そこで息子は重度のうつ病と診断され、少なくとも半年の休職が必要だといわれた。その時初めて、息子が何度も自殺を考えていたと知って夫もことの重大さを納得したようだ。息子が本当に苦しい日々を送っていたことを知って、私も泣きながら思わず息子を抱きしめてしまった。
今息子は休職して実家から病院に通って治療を受けている。アパートにいた頃のようなぼんやりしたところはなくなったが、時々死にたいと口にしたり、じっとベランダから乗り出すように下を眺めているかと思えば、僕がこんなになったのはおまえのせいだと私にひどい言葉をぶつけたり、感情の波が激しくてふりまわされる。
この先うつ病は治るのか、休職は認められているものの本当に元のように社会復帰はできるのか、いろいろ心配だけれども、私まで不安そうにしてはいけないので、気を張って息子を見守っていこうと思う。
気づく
うつ病は本人が自覚するよりも周りの人が先に気づくことが多い病気です。周りの人にわかりやすいサインには次のようなものがあります。
- 以前と比べて表情が暗く、元気がない
- 体調不良の訴え(身体の痛みや倦怠感)が多くなる
- 仕事や家事の能率が低下、ミスが増える
- 周囲との交流を避けるようになる
- 遅刻、早退、欠勤(欠席)が増加する
- 趣味やスポーツ、外出をしなくなる
- 飲酒量が増える
などの変化に気づいたら、本人を見守りながら医師や専門家、地域の相談窓口に相談して、適切な治療を受けられるよう支援しましょう。
自殺をほのめかす言葉を無視しない
患者さんが自殺をほのめかす言葉を言ったとき、その言葉に耳を貸すとますますその気にさせてしまうことが心配で話をそらせたくなります。でも患者さんは話を聞いてもらえないと一人で自殺願望を抱え込んでしまうことになります。
患者さんが自殺をほのめかしたら、批判したり励ますのではなく、まずは聞き役につとめてその思いをきちんと受け止めている態度を示します。自殺したいという思いを口にするだけでも、患者さんは楽になるのです。
「あなたに死なれたら家族や友人はとてもつらいから死なないで」という思いを本人に伝えることも大切です。死なない約束をしてもらうというのもある程度の力になります。もし本人が、目も合わせず約束できないくらいに思いつめているようなら、すぐに治療を受けている医師に相談してください。
「元気をだして」「がんばろう」という言葉は使わない
でも、「がんばったね」というねぎらいの言葉は使ってもいい言葉です。
見捨てられたと感じるようなことはしない/治らないだろうとあきらめない
信頼している人に見捨てられたと感じることはうつ病を悪化させます。時に攻撃的になって周りの人を批判したり拒絶することもありますが、それは病気がさせていることです。周りの人は、そうした攻撃によるストレスをためないように協力しあい、時に休息をとりながら、常にだれかは本人を見ていて誰も人を見捨てていないと感じてもらうことは重要です。必ず治ると信じて、医師とも力を合わせ、社会的な支援なども十分に活用して、疲れをためないようにして見守っていきましょう。
外出や趣味など気晴らしになりそうなことを強制しない
うつ病の人に気晴らしをさせることは、ガス欠の車を無理やり走らせようとするようなものです。まずはうつ状態を受けとめて、エネルギーが戻ってくるのを待ちましょう。
献身的になりすぎず、適度なガス抜きを
うつ病治療は長期にわたることがほとんどです。同居家族は看病で疲れ切らないように、無理をしないで患者に寄り添うように心がけることが肝心です。愚痴を話したり、頑張っていることを認めあえる家族会や友だちなどの理解者は、心強い支援者になります。家事などを手伝ってくれる人の存在も助かります。
困った時の相談先
- 当事者グループ、家族の会
- かかりつけの医師
- 病院・診療所の精神科や心療内科
- 地域でうつ病や自殺防止対策に取り組んでいる機関(保健所、精神保健福祉センターなど)