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強迫性障害とは

強迫性障害(Obsessive-Compulsive Disorder; OCD)は不安障害の一型であり、無意味ないし不適切、侵入的と判断され、無視や抑制を試みても絶えず心を占める思考や衝動、イメージなどの強迫観念と、主には観念に伴い高まる不安を緩和、打ち消すことを目的とし、そのばかばかしさや、過剰であることを自ら認識し止めたいと思いつつも、駆り立てられる様に行う行為、すなわち強迫行為からなる。
具体的には、トイレの度に「手の汚れ」を強く感じ、それをまき散らす不安から執拗に手洗いを続けたり、泥棒や火事の心配から、外出前に施錠やガス栓の確認を、切りがなく繰り返したりする。
これは従来、Freudに始まる精神分析の中では、「強迫神経症」として精神分析的、心理学的見地から研究や臨床の対象とされ、精神力動論による成因理解がなされてきた。しかし1960年代以降、神経生物学的観点からの成因や病態解明の進展、さらにはクロミプラミン(アナフラニ―ル)などセロトニン再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬や認知行動療法(cognitive-behavioral therapy; CBT)の有効性が検証されるにつれ、神経症概念の範疇では捉えきれなくなった。このため、1980年に改訂されたDSM-III では、「強迫性障害 (OCD)」に変更され、操作的診断基準によって疾患概念が明確化された。以後の研究では、特に精神病理や病因、脳機能、治療など多角的観点からOCDの多様性が注目され、OCDを均一的疾患とみなすことの限界が明白となった。実際このサブタイプとして、DSM-IVでは、持続的に症状の不合理性に関する「洞察に乏しいもの」が、ICD-10では、「強迫思考を主とするもの」、「強迫行為(強迫儀式)」を主とするもの」、「両者が混合するもの」がそれぞれ採用され、治療法選択や予後判定の基準として試行されている。
 
 

患者数

国際的な有病率

1960年以前、OCDの一般人口中の有病率は、0.05%程度と考えられてきた(Rudin et al. 1953)。DSM-IIIで操作的診断基準が導入されて以降、これに準拠する信頼性の高い診断を行う為の構造化面接法が開発され、疫学研究が進展した。例えば、アメリカ国立精神衛生研究所が作成したDiagnostic Interview Schedule (DIS) (Robins et al. 1985)によるNational Epidemiological Catchment Area Surveyが、1980-1983年にかけ実施され、その結果OCDは、恐怖症や物質関連性障害、うつ病などに次いで高率に見られ、その6ヶ月有病率は1.6%、その生涯有病率は2.5%であった (Myers et al. 1984, Robins et al. 1984)。同様にWeissmanら(1994)は、DISによる国際的疫学調査を、4大陸(プエルトリコ、カナダ、米国、ドイツ、台湾、韓国、ニュージーランド)で行い、12ヶ月有病率は1.1-1.8%、生涯有病率は1.9-2.5%と、それぞれ0.4%、0.7%の台湾を除けば、大きな地域差を認めなかった。その以外の国や地域でも、DISで診断したDSM-IIIのOCDの生涯有病率は、概して2%程度と、その出現に関しては宗教や経済面の相違など社会文化的背景による影響は少ないものと考えられた (Weissman et al. 1994, Sasson et al. 1997)。
その後、国際比較診断用構造化面接(Composite International Diagnostic Interview; CIDI)が、様々な国や地域、文化圏に対応しうる面接法として開発された(Robins et al. 1988)。このDSM-IV版を用いた様々な地域の疫学調査によれは、一般人口中の生涯有病率は0.5-2.0%であり、地域差はDSM-IIIの場合と同様に少ない (Fontenelle et al. 2006)。一方、DSM-IIIに準拠した場合に比べ、DSM-IVでの有病率は、概ね低率の傾向にあった。さらにOCDの診断閾値に達しない程度(閾値下)の強迫症状を有するものが、一般にも相当数いることが指摘されているが(Morris et al. 1997, Sasson et al. 1997)、強迫症状の重症度は経過中しばしば変動することから、この中に、一時的に診断域に達する場合があるものと考えられる。この様に、従来報告されているOCDの有病率では、

1) 適用される診断基準や閾値
2) 調査方法(面接法や評価者の熟練度、調査手段(対面式か電話かなど))に加え、
3)対象者の構成(年齢、性別など)
4) 強迫症状の特性(症状や重症度の時間的変遷)などの影響も考慮すべきである (Matsunaga & Seedat 2007, Nestadt et al. 1998)

我が国での患者数と有病率

我が国においては、一般人口中のOCDの有病率に関するデータは、未だ乏しい。大学生424名中のDSM-III-RのOCDを有する割合は、1.7%とされている(Tadai 1995)。また約4100名の一般住民を対象とした、川上(2007)の「こころの健康についての疫学調査」(世界精神保健日本調査)では、OCDの有病率は明らかではないが、不安障害全体の生涯有病率は9.2%であった。一方、東京、大阪、京都の三つの大学付属病院における、精神科総初診患者中のOCDの割合は、0.51-1.37%とされている (多賀1998)。同様に近畿圏の大学付属病院8施設を含む9つの総合病院精神科において調査した結果では、総初診患者中のOCD患者の割合は、1.75-3.82%であった(松永など2004)。これらは、フランスでの精神科外来患者を対象とした調査において(Hantouche ら1995)、OCD患者の割合が9.2%であったのに比し極めて低率である。すなわち本邦では、OCD患者自体が少ない可能性、またはOCD患者の精神科受診率が未だ低率である可能性などが推測される。この点、川上(2007)によれば、過去12カ月間に何らかの精神障害を経験した者の中の約17%、いずれかの不安障害では約19%程度しか、医療機関などを受診・相談していなかった。この受診率は、米国や欧州の多くの国々に比べるとかなり低く、さらに不安障害患者が選択した受診先は、半数以上が一般医であり、精神科は約7%に留まっていた。すなわち我が国では、重症でありながら受診行動に至っていないものも相当数おり、加えて精神科を受診することへの躊躇も、依然強いものと考えられる。この様に、現在のところ、我が国の一般人口中におけるOCD患者数や有病率の確かなデータは見られないが、概ね欧米と同様に1-2%程度、すなわち50-100人に1人、日本の総人口に換算すれば、100万人強のOCD患者の存在が推定される。

 
 

原因・発症の要因

OCDでは、その原因や発症に関わる特異的な要因は、未だ特定されていない。しかし、不況や新型インフルエンザの流行など、不安が増大しやすい現代の社会情勢では、自らを、あるいは大事なものを守ろうとする過度の防衛反応として、強迫的思考や行動が誘発されやすい可能性がある。また多くの患者では、対人関係や仕事上のストレス、妊娠・出産などのライフ・イベントが、発症契機となる。これらと、何らかの脆弱性要因、例えば神経生物学的、あるいは性格など心理的要因との相互作用を介し、発症に至るものと考えられる。この様なOCDに「なりやすい要因」とされているものを、いくつか挙げてみたい。

  • 強迫性パーソナリテイー
    精神分析理論に基づいた「強迫神経症」の概念では、その発現は肛門期という発達段階への固着と退行によるものと解釈された。倹約、頑固、几帳面、責任感といった、いわゆる強迫性格についても、同様の精神分析的解釈がなされ、これが「強迫神経症」と連続的で、その発症の基礎性格をなすと考えられた。しかしDSM-III以降のcomorbidity study(併存症研究)では、極端な強迫性格と一貫する強迫性人格障害(obsessive-compulsive personality disorder; OCPD)は、他の性格傾向よりはOCD発症に関係しうるが、必ずしも必要条件ではなく、両者の特異的関連性は否定的と結論付けられた(Pollack 1987)。一方、OCPDを構成するいくつかの人格要因の中でも、完全主義や細目へのこだわり、溜め込みなどは、他の不安障害(神経症性障害)と比較し、OCDに顕著であった (Eisen et al. 2006)。さらに完全主義をより詳細に検討した場合、「ミスへの過度のとらわれ」や「自身の行動への疑い」など、その一部の精神病理では、OCDとの特異的関連を認め、中でも洗浄強迫に比べ確認強迫でより高度であった (松永など, 2000)。この様に少なくとも完全主義など、OCPDを構成する一部の精神病理は、OCDの発症に関連する可能性があるが、それがOCD全般にわたるというよりは、対称性や正確性の追求、それによる確認、整理整頓、保存などの強迫症状を特徴とするものに、より特異的に関与するものと推測される。
  • 遺伝、あるいは家族性要因
    OCDにおいて、これらの病因的関与を裏付ける十分かつ一貫した知見は、未だ得られていない。しかし健常者を対照としたいくつかの家族研究では、OCD患者の第一親等親族において、診断閾値に達しない程度、すなわち著しい苦痛や機能障害を伴わないものを含めたOCDの罹病率、さらには不安障害全般の危険率がより高度であったとされる (Rauch et al. 2002)。特に若年発症例では、家系内集積性がより明らかな傾向であり、発症における遺伝要因の比重が高まる可能性が考えられる(Rosario-Campos et al. 2005, van Grootheest et al. 2007)。またOCDとチック障害、あるいはトウレット症候群とは、家族性、遺伝学的相互関連が推定されている(Eichstedt JA & Arnold SL 2001)。すなわち、これらの障害をもつ患者の親族には、OCDが高率に見られ、同様にOCDの親族には、チック障害などの出現が高率とされる(Grados et al. 2001, Pauls et al. 1995)。この傾向は、患者が若年発症であるほど顕著であり、特に18歳未満の発症では、それ以降に発症した患者に比し、親族における閾値上ないし閾値下OCDの発病危険率が、約二倍であったとされる。一方遺伝子研究では、最近のゲノムワイド関連解析により、OCD自体、若年例、ないし保存症状の疾患感受性遺伝子の報告もなされているが(Hanna et al. 2007, Samuels et al. 2007, Shugart et al. 2006)、未だ知見は乏しく特異的遺伝子の解明は十分なされていない。 2) 感染症、神経精神疾患との関連性  OCDでは、パーキンソン病、トウレット、シデナム舞踏病など、大脳基底核におけるドーパミン系機能異常を伴う神経精神疾患との関連性が指摘されている (Rauch et al. 2002)。また児童期のA群β-溶血連鎖球菌感染症による上気道感染はリウマチ熱を合併し、その後期症状として、舞踏様運動と伴に、高率に強迫症状を呈する。この感染に伴う異常な自己免疫反応による線条体の形態的、機能的異常を介し、小児期OCDやチック障害などの急性発症に病因的役割を担うことが推定されている(Swedo et al. 1998)。この様に、神経免疫機能とOCDとの間には何らかの関連が推定されるが、この感染が、常にOCDの誘因になるわけではなく、その機序や特異性などについては、今後の検討を要する。 その他 その他、OCDにおける神経生物学的病態として、脳形態的特徴や神経回路、神経化学システムに関するものがある。これらには、OCD出現に伴い二次的に出現するものも含まれるが、例えば前頭葉や基底核領域の損傷が、OCD発症に先行することもあり、またOCD患者の脳形態学的画像研究では、淡蒼球や両側尾状核の体積減少など基底核の形態学的変化を、主に若年例を中心に認める(Szeszko et al. 2004)。神経回路の中では、「皮質‐線条体‐視床‐皮質」回路が注目され、神経化学的には、セロトニン、さらにはドーパミン神経系の機能異常の関与が明らかにされている。
感染症、神経精神疾患との関連性

OCDでは、パーキンソン病、トウレット、シデナム舞踏病など、大脳基底核におけるドーパミン系機能異常を伴う神経精神疾患との関連性が指摘されている (Rauch et al. 2002)。また児童期のA群β-溶血連鎖球菌感染症による上気道感染はリウマチ熱を合併し、その後期症状として、舞踏様運動と伴に、高率に強迫症状を呈する。この感染に伴う異常な自己免疫反応による線条体の形態的、機能的異常を介し、小児期OCDやチック障害などの急性発症に病因的役割を担うことが推定されている(Swedo et al. 1998)。この様に、神経免疫機能とOCDとの間には何らかの関連が推定されるが、この感染が、常にOCDの誘因になるわけではなく、その機序や特異性などについては、今後の検討を要する。

  • 強迫性パーソナリテイー
    その他、OCDにおける神経生物学的病態として、脳形態的特徴や神経回路、神経化学システムに関するものがある。これらには、OCD出現に伴い二次的に出現するものも含まれるが、例えば前頭葉や基底核領域の損傷が、OCD発症に先行することもあり、またOCD患者の脳形態学的画像研究では、淡蒼球や両側尾状核の体積減少など基底核の形態学的変化を、主に若年例を中心に認める(Szeszko et al. 2004)。神経回路の中では、「皮質‐線条体‐視床‐皮質」回路が注目され、神経化学的には、セロトニン、さらにはドーパミン神経系の機能異常の関与が明らかにされている。
 
 

症状

強迫症状には様々な内容があり、通常それぞれ関連の強い強迫観念‐行為の組み合わせからなる。しかし中には、性的なイメージなど純粋に強迫観念のみ出現する場合や、強迫行為(儀式行為)を主とし、これを裏付ける強迫観念が明確でない場合もある。強迫症状の内容と、本邦のOCD患者での出現頻度を表1に示すが、汚染/洗浄、確認などの症状が最も高率である。これは欧米とほぼ一貫した傾向であり、強迫症状の出現様式において社会文化的影響は少ないものと考えられる。 強迫症状の中で、汚染/洗浄、確認に関するものの具体例を示す。

  • 汚染/洗浄
    例) トイレの後、なかなかきれいになった気になれず、手洗いやシャワーを繰り返してしまう。
    例) 公共のもの(例えばつり革など)に触わると、ウイルスなどの感染が心配となり、何度も手を洗う。
  • 確認
    例) 自分の不注意で火事を起こしたり、泥棒に入られたりすることを心配して、ガス栓や玄関、窓などが正確に閉まっているかの確認を繰り返す。
    例) 運転中、誰かを誤って轢かなかったか、または歩いていて子供や老人とすれ違った時に、こかしたり、ケガをさせていないかを心配し、ひき返したりして何度も確認する。

概して初診時、OCD患者は強迫症状に強い苦痛を感じており、無視したり抑制したり、止めようと努力していたり、少なくともその意志を示すが、不安に強くとらわれ、無視や行為を中断するなど制御や抵抗が難しい。または不安に圧倒され、抵抗しようと思う余裕すらない状態にある。この為、多くの場合、不安が引き起こされる状況を避け(回避)、さらに約1/3では、確認を強要したり、保証を繰り返し要求したりして、しばしば家族など周囲を、症状に巻き込んでいる。 OCD患者では、他の精神障害の併存をしばしば認めるが、うつ病が最も多く、初診時の約30%では併存を、そしてその生涯有病率は70%程度とされる (Denys et al. 2004, 松永2004, Pigott T.A., et al. 1994)。これはOCD発症後二次的に出現することが一般的であり(Pigott T.A., 1994)、うつ病を伴うOCD患者中、64-85%ではOCDの発症が先行していたという(松永2004)。すなわち、OCD患者に見られるうつ病、あるいは抑うつ状態の大半は、OCDにより生じる精神的葛藤や疲労、日常や社会生活上の機能的問題などと関連し出現するものと考えられる。

 
 

治療法

OCDの主要な治療は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor; SSRI)を主とした薬物、および認知行動療法(Cognitive-Behavioral Therapy; CBT)である。更に病気自体や治療、対処などについて、患者や家族などに十分な理解を促す心理教育は、治療的動機づけを高め、周囲からの一貫した支持を得て安定的治療環境を構築する上で重要である。表2個々の患者の治療は、症状の特性や精神病理、治療的動機づけの程度などを考慮し選択すべきである。薬物療法とCBTでは、それぞれメリット、デメリットがあり、例えば薬物は、導入や継続が容易で即効性が期待される反面、十分な反応が得られない割合が比較的高く、副作用や中断時の再発が問題となる。一方CBTは、より有効性が高く、効果の持続性や再発予防に優れるが、導入やアドヒアランスには、患者の状態や動機付けの程度などが大きく関わり、その効果は治療者の経験や技量にも影響されやすい。実地臨床の多くでは、うつ病の併存などでCBTは当初困難であり、薬物を先行させ、治療的動機づけを強化確認後、CBTに導入するといった併用療法が一般的である。

  • 薬物療法
    薬物療法の第一選択は、OCDの保険適応を有しているSSRI(フルボキサミン、パロキセチン)、あるいはクロミプラミン(アナフラニ―ル)などの強力なセロトニン(5-HT)再取り込み阻害作用をもつ抗うつ薬である。SSRIの副作用は、三環系など他の抗うつ薬に比し軽度で、より安全性に優れるが、吐き気や不安増強などを一過性に認めることがある。長期投与の場合、性機能低下などに注意する。以下に処方例を示す。

    処方例  下記のいずれかを、効果や副作用を確認しつつ漸増し、維持用量を決定する。
    1) デプロメール錠、またはルボックス錠(50mg) 1-5錠 分1-3
    2) パキシル錠(10mg) 2-5錠 分1-2
    3) アナフラニ-ル錠(25mg) 2-10錠 分1-3(保険適用外)
    これらの効果が不十分な場合、診断の再確認など原因を検討して治療法を再考する。薬物療法では、他のSSRIへの変更、SSRIに少量の抗精神病薬を付加投与する方法などを試みる (松永2010)。また観念のみ認める場合、認知的歪みや洞察の修正、治療的動機づけの強化などが必要な場合などでは認知療法が、心理・社会的、人格的要因などの関与が考えられる場合では家族療法など他の精神療法が、それぞれ有効となる。
    以下に処方例を示す。

    処方例 下記の4)-8)は、いずれも保険適用外ではあるが、処方例1)か、2)のいずれかに追加投与することが試され有効性が検証されている。処方例4)の場合、クロミプラミン(アナフラニ-ル)の血中濃度が数倍に上昇する為、心電図などで副作用に十分注意する。
    4) アナフラニ-ル錠(25mg) 1-2錠 分1-2(保険適用外)
    5) リスパダ-ル錠(1mg) 1-3錠 分1-3(保険適用外)
    6) ジプレキサ錠(2.5mg) 1-2錠 分1-2(保険適用外)
    7) セロクエル錠(25mg) 2-4錠 分1-3(保険適用外)
    最近では、エビリファイ(アリピプラゾール)を付加投与する方法の有効性も報告されている。

    認知行動療法(CBT) 曝露反応妨害法を用いることが多く、これまで恐れ回避していたことに直面化し(曝露法)、不安を軽減する為の強迫行為をあえてしないこと(反応妨害法)を継続的に練習する。その効果には、洞察や治療的動機づけの程度が影響する為、予めこれらを評価し適応を判断する。導入時には行動分析が重要であり、症状がどの様な場面や刺激により出現し、どの様な観念が生じて不安になるか、どの様な行為や回避を伴い、家族など周囲の巻き込みはあるか、日常や社会生活への影響はどの程度かなどを明確にして、治療目標を具体的に決める。課題設定は、通常不安階層表(ヒエラルキー)の不安値の低いものから順次行うが、患者が一番治したいもの、生活や社会的機能に関連し治療効果を実感しやすいものなどを、優先させる場合もある。当初は概ね治療者主導であるが、自ら課題を考え、問題を分析し解決する方法を模索するなど、徐々に自己制御へ移行することが重要である。
 
 

経過

OCD患者の治療予後を長期的にfollow-upした研究はいまだ少ない。我々の研究では、上述した心理教育、薬物療法、そしてCBTを組み合わせた治療を、一年間継続した場合のOCD患者の平均改善率、すなわちYale-Brown Obsessive-Compulsive Scaleで評価した重症度得点の減少率は、概ね50%程度であった。この中で薬物療法に関しては、従来、SSRIなど第一選択の抗うつ薬に中等度以上の反応性を示す患者の割合は約50%と考えられている。この様な薬物反応性の予測因子として、
1)男性で特に早発例
2)罹病期間が長期
3)対称性へのこだわり/儀式行為、物の溜めこみ、性的、宗教的などの純粋強迫観念などの強迫症状
4)症状に関する奇異な信念や魔術的思考の存在
5)全般性不安障害、あるいは全般性に特定される社交恐怖の併存
6)チック障害との関連性
7)統合失調型人格障害の併存
などがあり、これらを認めれば、SSRI抵抗性が予想される (松永2009)。
最近では、SSRI抵抗性患者の1/3~1/2に対しては、非定型抗精神病薬などの付加投与が有効と考えられている。しかし一旦薬物が奏功しても、自己中断などで服薬が途絶えた場合、落ち着きのなさや悪心などSSRIの離脱症状に注意を要するとともに、再発率が70~90%と高率であり、十分な服薬アドヒアランスが維持されるよう配慮すべきである。また治療により強迫症状が改善した場合、どの様に薬物の減量・中止を図るかについて、未だコンセンサスには至っていない。一般的に、有効な薬物療法を1-2年間は継続することが必要とされ、減量する場合、状態を観察しながら緩やかなペースで、具体的には1-2カ月かけ10-25%を減量する程度が推奨されている(Koran et al. 2007)。 一方、CBTについては、前述したように、その導入やアドヒアランスには、患者の状態や動機付けの程度などが大きく関わるが、もしプログラムの継続・完了が達成されれば、60-90%に何らかの改善をもたらし、そのうち75%では、その有効性が長期的に維持される。さらに薬物療法のみの場合に比べ、高い再発防止効果が期待できる。すなわち、いずれ薬物を減量していく場合でも、CBTを予め学習し、暴露(不安の対象や状況への直面)、そして反応妨害(強迫行為の制御)を維持できれば、不安の増大や症状の再燃は、かなり予防できるものと考えられる。

 
 

患者さんへのアドバイス

最近では、OCDに対する有効な治療法がいくつか確立され、個人差はあるものの、受診に至り治療が継続できた患者の多くでは、生活全般における支障の軽減や、社会的適応能力の改善が認められる。一方で、OCDによる様々な困難を抱えながら、自宅外に感じる汚染や、施錠の心配などから外出もままならず、受診自体が難しいケースも少なからずあるものと思われる。この為、まず家族は、患者が受診に至るよう粘り強く応援していくことが必要であり、治療に対する同意や意思を高める上で、患者と十分に話し合い、心配や希望を伝え、「適切な治療により、良くなる可能性があること」など、前向きで正確な情報を伝えていくことが望ましい。中には、家族が患者の希望通り振る舞うことを強いられ、様々なルールや縛りの中で、不自由な生活に陥っている状況もしばしば見られる。しかし通常、要求に応えていっても切がなく、却って患者が「完璧な納得」を突き詰める中で不安焦燥が高じ、意のままにいかなければ、時に暴力行為に至ることがある。更に家族には、長時間拘束され疲労困憊するなど、心身に大きな負担がかかるものとなる。この場合、まず患者自身は、他者を巻き込み、コントロールすることが、結局は自分の思うように終結できず、更に不安焦燥を招く不安定要因となりうるものと知るべきである。一方家族は、しばしば患者に対し過度の責任感や罪悪感を抱いており、要求に応えることが患者の為と考える傾向がある。しかし患者の要求が益々エスカレートし(言い方や表情など)、対応できなくなると、これが患者の不安や怒りを増幅させるといった悪循環に陥る。この様な巻き込みによる不安増強過程や、要求に応えることの不合理性、非現実性を患者、家族双方が理解することが必要である。 以下に我々が診療の中で実施している患者、そして家族へのアドバイスのポイントを要約する。

患者へのアドバイスのポイント
OCDは病気であり、性格や意志の弱さなどではないこと、「自分の為に治す」という決意と目標を持ち、適切な努力を諦めず続ければ、治癒や軽快する可能性は十分あること、薬物は治療の要であり副作用も一時的で安全性も高いが、効果発現にある程度の期間を要し、自己判断せず規則的服薬を継続すること、治療は長期にわたる場合があり、状態に一喜一憂しないこと、などを当初説明する。

家族へのアドバイスのポイント
家族による支援では、治療を求め継続するように患者を支え励ますこと、病気の理解に努めること、病気について患者を責めないこと、過度の罪悪感や責任感は無用であり、継続できる一貫した応援を心がけ、焦らず気長に見守ること、症状への巻き込みなど周囲にかかる負担は大きく、接し方や対処法を主治医に確認すること、などの点が大切である。 

 
 

研究の現状

現行のOCD治療に個々の患者が示す反応性や、奏功する、あるいは必要となる治療法は決して一律ではない。すなわち、近年、症候学的、精神病理学的特徴、及び成因や病態生理、更には有効な治療法やその反応性など多角的観点から、OCD内の多様性が支持され、これを現行の単一的、均質的診断カテゴリーとして捉えることの限界が明らかとなりつつある。これを説明する為の次元的分類法として症状軸(symptom dimension)がある(Bloch et al. 2008, Mataix-Cols et al. 2005)。これは、1) contamination/washing & cleaning (汚染/洗浄)、2) symmetry/ ordering & repeating rituals (対称性/整頓・繰り返される儀式行為)、3) forbidden (aggressive) thoughts/ checking (禁断的(攻撃的)思考/確認)、 4) hoarding(保存)などの各dimensionにより構成される。この構成、すなわち症状構造は、社会文化的背景や年齢などの影響を受けず概ね安定的であることから(Bloch et al. 2008, Matsunaga et al. 2008)、それぞれの発現に、本質的で特異的神経生物学的機序が介在している可能性が示唆されている。これをふまえ、symptom dimensionを基準とした、個々に適用する治療法の合理的選択が試行されている。例えば、汚染/洗浄や禁断的思考/確認などのdimensionが優勢であれば、SSRIやCBTなど定型的治療の適応となり、これにある程度反応するものと予測される。一方、対称性/整頓・繰り返される儀式行為dimensionは、若年発症やチック障害などとの関連性が強く、ドーパミン系機能異常のより密接な関与が推定されている。実際、これが高度であれば、SSRIへの抵抗性が予測されるが、非定型抗精神病薬の付加投与はしばしば有効である。またこのタイプでは、何かを完全に、対称的に、または正確性を追求するがあまり、ある行為を儀式的、常同的に繰り返し、思う様に完了するまで行動できなくなる状態、すなわち強迫性緩慢を呈することも多い。この様な患者に対するCBTでは、頑なで非機能的な認知パターンの修正がしばしば必要となり、行動療法では暴露反応妨害法以外の技法、例えばシェイピングやモデリング、ペーシング、儀式短縮化訓練などが推奨されている。同様に保存dimensionが高度であれば、しばしば強迫的保存(溜め込み)症 (compulsive hoarding) とよばれる状態を示す。この自我親和的特性から、この不合理性の洞察を明確に有する場合は少なく、まずは認知面に対する直接的治療介入がしばしば必要となる。さらに、概してSSRIなどの薬物や定型的なCBTに抵抗性であり、非定型抗精神病薬などの付加的治療に対しても、その反応性は十分とは言えない。最近では、保存症状に特化したCBTプログラムが提唱されている。
この様に、symptom dimensionなど、ある臨床的指標を基準として、治療反応性を予測すると伴に、個々に有効な治療法をより的確に選択し実行していくことが、今後の重要な課題である。しかしながら、より妥当で実用的な分類基準の必要性と伴に、現行の治療オプションの限界や問題点も明らかで、今後、エンド・フェノタイプといった成因、あるいは発現機序、サブタイプの解明などがより進展して、OCDの病態仮説にも新たな展開や見直しが加えられ、更なる治療法の提言、開発などが進められるものと期待される。

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