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精神科に入院したときの権利
精神障害者であるないに関わらず、どんな場合であっても、一人の人間として「人権」が守られなければならないことはいうまでもありません。自分の意思で、自らの行動や、生き方を選ぶことも人権に含まれます。
しかし、精神疾患の病状によっては、どうしても医療や保護のために必要な場合、治療のために、自分の意思に反して精神科に入院したり、入院治療に身体の拘束を伴うことがあります。
このような処遇は、人権が適切に守られた上で、医学的な必要性についての厳格な判断と、法的に定められた手続きに則って行われる必要があります。
ここでは、精神科への入院の仕組みとともに、人権が適切に守られるべきことや、入院患者には様々な権利があることをご紹介します。
入院の制度について
精神科の入院制度には大きく分けて3つあります。本人が自ら入院に同意する「任意入院」、本人の保護者の同意による「医療保護入院」、都道府県知事の権限による「措置入院」に分けられます。こうした入院制度は精神保健福祉法で定められています。
このうち、本人が入院の必要性を理解し、自らが選択して入院する「任意入院」が最も望ましいものです。任意入院以外の場合は、本人の意思に反して入院をすることになりますが、そのような入院の際には、「告知義務」があり、十分に説明を受けることとなっています。
任意入院
本人が自ら入院を希望しての入院となります。自ら希望する入院ですので、自らの申し出により退院もできます。ただし、精神保健指定医が、本人の医療及び保護のために退院が望ましくないと判断した場合は、書面にて十分な説明をしたうえで72時間に限り退院を制限することがあります。
入院形態の中では、任意入院が望ましいことから、病院の管理者は出来る限り任意入院ができるように努めることとされています。
医療保護入院
精神保健指定医が、本人の医療及び保護のために入院が必要と判断しているが、本人が入院に同意しない場合、保護者の同意により入院となります。保護者とは、後見人または保佐人、親権者、配偶者、扶養義務者のことを言います。保護者に該当する者がいない場合や、やむを得なく保護者の責務を果たせない場合は、市町村長が保護者となります。
医療保護入院で入院した場合も、病状の改善や本人の同意が得られる状況になった場合は、任意入院に切り替えられます。
措置入院
入院しなければ自傷他害の恐れがある場合の、都道府県知事の権限による入院です。措置入院には、精神保健指定医2名以上の診察により必要と認められることが必要です。ただし、急速を要する場合は、精神保健指定医1名の診察に基づいて、72時間に限って緊急措置入院が行われる場合があります。
措置入院で入院した場合も、病状の改善により医療保護入院や任意入院へ切り替えられ場合があります。
【精神保健指定医とは】
精神科医療の経験や資質等の一定の基準を満たした医師を「精神保健指定医」として定めています。任意でない入院や行動制限などの、人権に関わる医学的判断を行うことができるのは、精神保健指定医に限られています。
入院の処遇について
開放処遇と閉鎖処遇について
精神科への入院は、病気の特性上、病棟の出入りが自由にできない閉鎖病棟への入院となることがあります。
ただし、自らが同意する任意入院の場合は、出入りが自由な開放病棟への入院や、たとえ閉鎖病棟であっても本人の希望で自由に出入できる、開放的な環境での処遇が望ましいとされています。
また、任意入院でありながらやむを得なく閉鎖病棟での処遇となる場合は、書面にて本人の同意を得ることが必要とされています。
隔離、拘束について
病状が悪化した場合、医療及び保護のために身体の拘束や、出入りの自由でない個室への隔離が必要となる場合があります。このような行動制限は、病状により、精神保健指定医がどうしても必要と判断した場合に限って行われます。
ただし、こうした行動制限は必要最低限のものとされ、病院は、行動制限を行った場合は毎日診察してその必要性を判断したり、「行動制限最小化委員会」を設置して行動制限をできるだけ減らせるよう検討するなど、適切に行うものとされています。
人権を守る仕組みについて
いかなる場合でも制約されない権利
入院の形態に関わらず、たとえ精神保健指定医の判断による行動制限がある場合でも、絶対に制約されない入院中の方の権利があります。
- 信書の発受(手紙を出したり、受け取ること)
本人の同意なしに病院職員が手紙を開封し中身を閲覧することはもちろんのこと、手紙を出したり受け取ることの制限は禁止されています。ただし、あきらかに異物が入都道府県・地方法務局などの人権擁護に関する行政機関の職員、入院中の方の代理人である弁護士との電話っていると疑われる場合は、病院職員の前で本人が開封し、異物を取り除くことがあります。 - 都道府県・地方法務局などの人権擁護に関する行政機関の職員、入院中の方の代理人である弁護士との電話
病院外部への電話は、興奮状態であるなど、明らかに病状に影響がある場合は制限を受けることがありますが、たとえその場合であっても必ず十分な説明をされなければなりません。
ただし、(1)都道府県・地方法務局などの人権擁護に関する行政機関の職員、(2)入院中の方の代理人である弁護士、との電話に関しては、たとえ措置入院や隔離をされていたとしても制限を受けることはありません。 - 都道府県・地方法務局などの人権擁護に関する行政機関の職員、入院中の方の代理人である弁護士、本人又は保護者の依頼により本人の代理人になろうとする弁護士との面会
2.の電話と同様、面会が明らかに本人の病状に影響がある場合は制限をすることがありますが、たとえその場合であっても必ず十分な説明をされなければなりません。
ただし、(1)都道府県・地方法務局などの人権擁護に関する行政機関の職員、(2)入院中の方の代理人である弁護士、(3)本人又は保護者の依頼により本人の代理人になろうとする弁護士、との面会は、制限を受けることはありません。
告知義務
入院する際、入院の種類(任意入院、医療保護入院、措置入院)に関わらず、入院の種類、入院中の制限や権利、退院の請求等について、十分な説明が口頭及び書面にて告知され、本人に手渡されことになっています。
処遇改善請求・退院請求
ときに入院中の方が受けている処遇や治療に納得がいかない場合があるかもしれません。
たとえば、病状が改善したにも関わらず処遇が改善されない、病状について十分な説明が受けられない、退院を求めたが納得のいく説明もなく入院が継続しているなどの場合です。
もちろん、まずは主治医と十分に相談したり、ときには病院のソーシャルワーカー等の病院職員に相談することが必要です。しかし、それでも改善されない場合は、都道府県知事に対し「処遇改善請求」や「退院請求」をする権利があります。
こうした請求は、入院中の本人や医療保護入院・措置入院の保護者がすることができます。連絡先は病院内の見やすい場所に掲示され、入院時には書面で受け取ることとなっていますが、分からない場合は病院のソーシャルワーカー等の病院職員に確認してください。
精神科病院の公衆電話に、請求の窓口となる機関の電話番号・住所が掲示されています。たいていの地域では、都道府県または政令市の精神保健福祉センター等が窓口になっているます。請求された内容は、精神医療審査会にて検討されます。
【精神医療審査会とは】
精神科病院に入院中の方に適切な医療が提供されているか、人権侵害がおこなわれていないかについて調査・審査をします。審査会の委員は医師、法律家、有識者等で構成されています。
~ 審査の内容 ~
- 精神科病院の管理者から医療保護入院の届出、措置入院者・医療保護入院者の定期病状報告があったとき、その入院の必要性が適切かどうか審査をします。
- 精神科病院に医療保護入院中の方、措置入院中の方、あるいはその保護者の方から退院請求や処遇改善請求があったとき、その処遇が適切かどうか審査します。必要な場合には精神医療審査会は病院に対して指導をします。
【参考:【全国精神保健福祉センター一覧】