アルコール依存症
「アルコール依存症」とは
習慣的な飲みすぎで、誰もがなる可能性がある病気
お酒は「百薬の長」ともいわれるように、少し飲むだけなら健康によい影響を与えるとされています。ただし、飲みすぎれば、お酒は「万病のもと」にもなるものです。多量のお酒を飲み続けるうちに、やがて時間や場所をえらばすにどんなことをしてもお酒が飲みたくなり、飲み始めたらやめられなくなるといった状態になっていたら、すでにそれはアルコール依存症かもしれません。
アルコール依存症は「進行性」の病気
アルコール依存症の患者数は80万人以上といわれていますが、その予備軍も含めると約440万人にもなると推定されています。 アルコール依存症は進行性の病気で、時間をかけて悪化します。飲みすぎが習慣化してから、アルコール依存症になるまでの期間は、男性で約10~20年、女性はその半分の期間といわれています。
百薬の長になる量はどのくらい? 危険な量はどのくらい?
では、どのくらいの量から「飲みすぎ」になるのでしょうか。厚生労働省の「健康日本21」では、アルコール依存症の発症リスクが少ない飲酒量として、壮年男性の場合で、1日ビール500ml(日本酒1合弱、25度焼酎なら100ml)以下という基準を示しています。これは純アルコール量換算で1日20g(約25.4ml)です。また、お酒を飲まない「休肝日」を週2日以上とるのが望ましいそうです。
一方、1日の飲酒量がこの3倍以上になると、飲みすぎとなり、アルコール依存症になるリスクが高まると警告されています。つまり、1日にビール3本、日本酒3合弱、25度焼酎300mlを越える量となります。これは、お酒に強い人ならついおいしく飲んでしまう量ともいえます。そういう人は、アルコール依存症の重大な危険の中にいることになります。飲む量をなるべく控え、毎日飲み続けることをやめて休肝日を作るなどの工夫をしてください。
早期に治療すれば回復が早い
アルコール依存症が進むと、多くの病気にかかるだけでなく、飲酒運転で摘発されたり、職場でトラブルを起こして失業するなどして、経済的にも追いつめられ、家族や友人も去って、生命さえ失うことにもなりかねません。
アルコール依存症は、早期に治療を始めればそれだけ治療効果があがりやすく、特にプレアルコホリズムといいう、依存症の手前できちんとした対策をとれば、社会的にも経済的にも自他を傷つけず、また病気としても完全に回復することが可能な段階でとどまることができます。
アルコール依存症のサイン・症状
1.アルコールへの精神的な依存がある
アルコール依存症への精神的な依存とは、機会さえあれば、お酒を飲みたいという「抑えがたい欲求」がある状態です。
- お酒を飲むべきでない時にも「飲みたい」と強く思う
- お酒を飲まないと食欲が出ない、寝つきにくい
- いつも手元にお酒がないと落ち着かない
- 数時間ごとに飲酒する「連続飲酒」をする
2.アルコールへの身体的な依存がある
アルコールがいつも体内にある状態が続くと、脳はそれが普通の状態だと認識し、アルコールが抜けてくると、さまざまな不快な症状が出ます。
- 酔いがさめると、次のような離脱症状(禁断症状)が出る
手のふるえ、多量の発汗、脈が早くなる、高血圧、吐き気、嘔吐、下痢 イライラ、不安感、うつ状態、幻聴、幻覚 - お酒を減らしたい、お酒をやめたいと思ってもできない
お酒で健康を害していても、お酒をやめられない
3.体に現われるダメージ
アルコールが肝臓で分解されてできるアセトアルデヒドという有害物質が、代謝異常や免疫異常を起こします。肝炎や脂肪肝、膵炎などの疾患や、生活習慣病、はては消化器系のがんなどの背景にアルコール依存症がある場合があります。
5.心に現われるダメージ
うつ病、不安障害、パニック障害などの背景にアルコール依存症がある場合があります。
この中でも特に、「連続飲酒」と「離脱症状」はアルコール依存症の典型的な症状です。
プレアルコホリズムのサイン
連続飲酒、離脱症状はでていないけれども、お酒が大好きでそのために体調を崩しているのにやめられない人、いけないと思っても飲酒運転して事故をおこしたり、自分や人を傷つけたりといった問題をおこしている人などは、プレアルコホリズムがうたがわれます。
これらはあくまでも目安です。
おかしいな? あてはまるかな? と思ったらまずは専門知識のある人に相談しましょう。困った時の相談先も参考にしてください。
インターネットなどで一方的な情報を集めて自己診断することは早期治療を遅らせるだけでおすすめできない方法です。
アルコール依存症の治療法
「自分は依存症ではない」と否定する人は、お酒のせいで体をこわすと内科の病院に行きます。そして、具合がよくなると、また飲酒を始めるため、だんだん悪化していきます。本人がアルコール依存症の専門科に行きたがらないときは、まず家族が病院で家族療法を受けて、本人を治療に導きます。
治療は、本人や家族の状態に応じて段階的に進めていきます。まだ依存症にいたっていない人の場合などは外来治療になることもあります。
1.治療の目標
- さまざまな治療法で断酒をめざし、心身の回復を図る
入院から約1ヵ月は、「アルコールで弱った体の回復」と「断酒」のための治療が行われます。その後は断酒を続けるための薬物療法、各種の精神療法、教育的な治療や社会復帰を図るリハビリなどが行われます。
2.治療方法
- 薬物療法
離脱症状を軽くするための薬
お酒を遠ざけるための薬(抗酒薬)
低栄養の治療のためのビタミン剤や電解質補正液
肝臓機能障害の治療など - 精神療法
抑うつ、不安、孤独感などに個人精神療法や集団精神療法など - 教育的な治療
断酒を続けるための学習会などで、正しい知識を身につける - 家族療法
依存症を家族全体の問題としてとらえ、患者に対して効果的な援助ができるよう、家族に病気に関する知識をつけてもらう。また、家族がくじけることなく、問題に立ち向かえるようさまざまな援助をする。 - 断酒会やAAなどへの参加
患者とその家族が、同じ立場の人たちと交流し、断酒を続ける助けとする。断酒会のほか、AA(Alcoholics Anonymous)といって、匿名のまま交流できる依存症患者の集いなどがあり、病院で紹介してもらえる。
私がアルコール依存症になったとき
私の経験 (41歳女性・会社員)
不況が長引き、新人の入社がないまま女子社員ではいちばんのベテランになり、女性ばかりの営業チームのリーダーをしている。私以外のメンバーは、契約社員や派遣社員で、彼女たちは実績によっては正社員になれる(ことになっている)。
でも、いつ雇い止めになるかわからない人に無理はさせられない。契約切れで去っていく人に十分な教育する余裕も私にはない。
ひとりでいろいろ抱え込むようになって疲れてきた頃、送別会で居酒屋に行った。久しぶりにお酒を飲んで緊張がほぐれ、いろいろ話ができて楽しかった。
「Mさんってお酒を飲むと元気でいい感じ」と言ってくれる人もいた。
それから、自宅で毎日のように飲むようになった。とくに寝る前に飲むと疲れがとれてよく眠れるのが気に入った。でも、ときどき酔っ払ってテーブルに突っ伏して朝まで寝てしまい、首や肩を傷めてしまうような日もあった。
ある日、職場の健康診断で、肝機能の数値がひっかかって再検査になった。医師にはアルコール依存の一歩手前といわれた。骨密度も以前よりだいぶ低い。
酒を断つ決意で、アルコール依存症の専門クリニックに通院し、断酒会にも参加していて、いまのところ、断酒は半年くらい続いているけれど、それまでの1年間、仕事をするほかの楽しみはお酒だけだった。
「熱中できる趣味でも見つけて」なんていう時間は私にはとれないし、もしかしたら挫折してしまうかもしれないと思うと怖くなる。
お酒以外にリラックスできる方法をみつけよう
世界保健機関(WHO)による依存症の診断基準のひとつに、「飲酒のために、ほかの楽しみや興味を次第に無視する」という項目があります。忙しすぎて、プライベートな楽しみに目を向けることがなかった人は、これまでお酒を飲むことに使っていた時間を利用して、ヨガや太極拳、マッサージ、音楽を聴くなど、自分なりにリラックスできることを試してみましょう。
最初から高い目標を掲げない
「断酒」とは一生飲まないことをいいますが、とりあえず「きょう1日、飲まないでいられた」を積み上げていくという姿勢で取り組み、あまり先を見すぎないほうが成功するかもしれません。
家族や友人がアルコール依存症になったとき
夫がアルコール依存症になった妻の経験 (妻62歳 夫68歳)
夫は車を使う仕事をしていたので、平日は飲まず、週末の金曜から日曜までの夕飯時にビールのロング缶を1本飲むだけというのが長年の習慣だった。
定年後、夫は節約のため、ビールを安い焼酎に変え、お湯割りで飲むようになったが、だんだんお湯より焼酎の量が多めになっていくのが気になっていた。
でも、「夫は長年まじめに働いてくれたのだから」と思うと、大目に見てあげたかった。夫は酔ってもあまり変わらない。静かな酒で、いつもニコニコ笑っておだやかに飲んでいた。ただ、よく見ると最近は「静か」の中身が違うような気がする。
笑顔はなく、無表情でかなりのスピードで飲んでいる。ときには、昼から夕方まで飲み続けている。仕事をやめてさびしいのかもしれない。
ある日、夫は元同僚の自宅での「飲み会」に招かれて出かけていった。「夜9時頃までには帰る」と言っていたのに、11時を過ぎても帰ってこない。
夜中、地元警察から電話があり「ご主人が道路で寝込んでいるので、迎えにきてください」という。タクシーで警察署にかけつけると、青い顔色をした夫はもう起き上がっていて「歩いて帰れる」と言うので、2人で歩いて帰った。
次の朝、夫の足の甲が紫色に腫れあがっていた。病院でレントゲンを撮ると、骨折していた。「お酒を飲んでいると痛みを感じないことがあるんですよ」と整形外科医は言っていたが、こんなひどいケガが痛くないとは。
念のため、内科にも行くと、肝臓の数値がかなり高く、毎日の酒量や飲み方などの質問を受け「アルコール依存症」と診断された。
高齢になると肝機能が低下するため、アルコールに弱くなって、それほど飲んでいなくても短い期間で発症しやすいのだとのこと。
医師から「断酒会」を紹介され、以来3年間、断酒が続いている。
依存症が疑われるサインを見逃さない
次のような変化があった場合は、依存症が疑われます。
- 飲酒量が増えた
- 飲むスピードが早い
- ひとりで飲む
- お酒以外の楽しみがない
- 飲む時間が長く、回復にも長い時間がかかる
本人が否定する場合は、とりあえず健康診断を受け、アルコールの害で健康を損なっていないか、確認してみましょう。
困った時の相談先
- 各都道府県の精神保健福祉センター
- 断酒会、AA(Alcoholics Anonymous)などの自助グループ
- アルコール依存症の専門病院
- かかりつけの医師
- 病院・診療所の精神科や心療内科
- 精神療法の専門家